5.26講演会に550人が参加



 5月26日、東京・日本教育会館を会場に、「5.26講演会★さようなら原発」が開催され、550人が参加しました。呼びかけ人でルポライター・鎌田慧さん(写真)の挨拶に続いて、前半は、金子勝・慶応大学教授、村上達也・茨城県東海村村長の講演が行われ、後半には写真家・大石芳野さんの福島原発から20km圏内で撮影された写真を紹介しながらの講演。井野博満・東京大学名誉教授、ISEP環境エネルギー政策研究所首席研究員の松原弘直さんによる講演、井野さん、松原さんによるシンポジウムが開催されました。

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5.26講演会★さようなら原発

於:日本教育会館

鎌田慧さん(呼びかけ人・ルポライター)
 日本の原発は54基ありますが、もう4基は完全改修不能で、浜岡を入れるともう50基弱ですけど、日本でつくった原発が全て停止したという歴史的な瞬間を迎えています。それでもなおかつ電力は全く不自由しない。日常生活に影響もない。原発がないと電力不足になるとか盛んに言われました。石油危機の頃に、石油はあと30年しかないから原発に移行するんだと声高に宣伝されました。しかし、石油はずっと続いていて、原発がなくても何ら不自由がない。こういうきわめてフィクションとして危機意識を煽りながらつくられてきた社会の脆弱さやウソ、あるいは自然をこれだけ汚染させてもなお始めようとしている原発、それを維持しようという原発勢力、こういう問題がますます明らかになってきています。
 この日本の原発産業、三菱重工、あるいは三菱電気、日立、IHI、東芝、日本製鋼、そういう原発メーカーとゼネコン、いろんな関連産業が、日本ではもう新増設できないから輸出していこうという凶暴な形になっています。世界に対して核武装の核拡散の危機を煽っていくというところにあります。
7月16日の10万人集会は、誇るべき歴史的な集会になると思います。そういう集会の熱い火照りを熱い熱気を若い人たちに伝え、若い人たちがさらにこれから運動を進めいろんな運動に参加していくという意味もあります。代々木公園を10万人で埋めつくす。それから行進しアピールしていく。そういう日が近づいています。
 政府は再稼働をめざします。それを阻止する。ちょうど土俵で四つに組み合っている形で、私たちのほうが今押しています。このまま押して原発のない社会に向かっていく。そういう日に向けて本当にがんばっていきたいと思います。皆さん、力をつくしてがんばりましょう。

金子勝さん(慶応大学教授)「原発と東電──原発は不良債権である」
 原発がないと成長がなくなるとか日本経済は滅びるとか、燃料費の上昇だ、だから電気料金を上げなきゃいけないとか、ウソやデタラメがまかり通っておりますので、騙されないために話を多少は提供できればいいかなと思っています。
 皆さんが一番直近で抱えているのは経済問題です。一つは「エネルギーが足りないから原発」をという話をやってきているわけです。でも、去年から今年にかけて、「もう今年の冬は厳しいから停電が起きる」と言ってどんどん原発が停まっていくのに全然停電も何も起きない。おそらくこの夏も実は本当は電力足りていて、データ隠ししているとほとんどの人が思っているんです。大手企業の自家発電装置が去年からどのくらい増設されたか聞くと、何で足りないんだろうという数字が出てくるわけです。一番暑い夏をとりあげてやってますけど、おそらく1,000万キロワットぐらいの誤差はあるかもしれません。もし自家発電を使えばその分の発電必要量は減るわけで、そこから足りない地域に売ればいいわけです。
 問題はコストです。「原発を停めると石油や石炭のガスの値段が上がるので、原発が一番安いんだ」というデマキャンペーンが行われています。「原発は自給のエネルギーでCO2を出さない」。ふざけるんじゃない。こんなものは不良債権だとはっきり言わないとみんな納得しないじゃないですか。燃料費の上昇というとき、最近の新聞に、実は東京電力は38%しか家庭用に売っていないのに利益の91%が家庭用だったというデータが出ています。あれは普遍的にずっとそうなんじゃないんです。実は去年、みなさんも自動引き落としになっているので電気料金は気がつかなくなっているんですけど、こまめにとっているとわかったはずです。家庭の規模や利用料によってずいぶん違うんですけど、だいたい600円から1,000円ぐらい上がっているんです。
 電気料金の仕組みは、東電の場合、家庭用が4割ぐらいで6割が企業です。これは形だけ自由化されたんです。きっかけは、2002年に福島の事故隠しがあって、そのときに電力の自由化が進んだ。すると、家庭用に乗せていくというプロセスになってくる。家庭用はどう決まっているかといったら、総括原価方式です。要するにかかったコストに対して絶えず一定の利益を乗せて電気料金を決めることができるという仕組みです。しかも地域独占。10社独占体制ができているわけです。その中に燃料調整額というのがあって、これは形式だけを説明するわけです、テレビの解説者は、これはいちいち経産省の認可が必要だから大変だと言いますが、3ヵ月ごとに燃料費の上昇分をカウントして自動的に乗せていくんです。つまり、申請したらほとんど自動的に認可されています。
 有価証券報告書のデータに決算説明というのがあります。つなぎ合わせて見ていくと、東京電力は燃料費の上昇分を電気料金の値上げでほとんどカバーしています。ということは、企業の分もみんなカバーしています。何で認可するかというと東電が危ないからです。よくある一番簡単な事実は、燃料費が上昇しているから、原発は停まった状態で何にもお金がかからなくて、燃料費が上がって石炭火力に移すと石炭やガスで動かしているものに代えただけで燃料費がかかるじゃないかということです。一応ウランは1円とか石油16円とかとんでもない値段がついているんですけど、ガンと上がって、「だから原発を動かしたほうが安い」という議論をやるわけです。
 ところが、よく観察しているとわかることは、北陸電力と四国電力はちょっと黒字になったんです。第3四半期、去年の12月末までのデータを見ると、黒字は電力11社の中で3社あるんです。一つは沖縄電力、沖縄電力は原発持っていないんです。電源開発、大間の原発建設が問題になっていますけど、とりあえず今のところ水力・火力。もう一つが中国電力。ほとんど石炭火力。島根原発があるけど、原発依存は3%なんです。つまり原発を持っていない電力会社はほとんど黒字決算です。原発をたくさん持っている電力会社ほど赤字がひどい。しかも早く稼働が停止したところほど赤字がひどいということです。
 それは二つの要因があるんです。一つは電力を決めるときに、単価で原発は1キロワット時あたり5~6円ということになっているんです。そんな安いわけないんだけど、シミュレーションでつくった数字があるんです。それに対して石炭とか石油は10円を超えていて、石油も16円とか、最初に電力料金を経産省に申請するときにそのコストで計算しているので、原発価格を意図的に低く抑えていたのが動かせなくなると、いきなり高い火力のほうに移ったために、その差額が赤字として出てくるわけです。これは正確に言って燃料費じゃないんです。電力コストの計算上の差額がボーンと出ると、これはみんな燃料費ですという説明をしているだけです。よく考えてみるとわかるんですけど、原発は停めているだけで金がかかるんです。普通の工場と違って、停めたらあとは放っておけばいいという話じゃなくて、原発は停めていても危険なんです。核燃料だから冷却し続けなければいけない。メインテナンスコストもいるわけです。同時に、1基3,000億円とか5,000億円とかいろいろなお金がかかるので、大量に借金をしているんです。資本コストがすごく高くて、その借金の返済コストだけでもすごい額になる。
 東京電力は11兆円とか13兆円という資産があるとよく言われるんですけど、去年の年度末ぐらいで8兆5,000億円も借金がある企業なんです。だから原発が停まった瞬間に、新たに燃料費が生じますよというのはウソで、全部停まるとおそらく1兆2,000~3,000億円ぐらいの赤字がそれだけで起きているんです。だから動かしたい。
関西電力はミニ東電化しています。あの企業は11基ある原発のうち7基までが1970年代に運転開始した老朽原発です。大飯の3、4号機は一番相対的に新しい1990年代のもので、これが安全だろうと思って動かしているように見えるけど、ルールなき稼働ですので、関西電力としては全部なし崩しで動かせば老朽原発まで全部動かせるという動かし方をしているわけです。それはなぜかというと、停まっているだけで原発依存度が48%もある失敗企業なんで、しかも残っている火力の12基のうち5基が石油で、石油なんてオイルショック以降ほとんどつくっていけない状態なのに老朽火力なんです。しかも石油の値段が高く設定されているので、原発が停まると赤字体質になっているわけです。そういう企業なので必死に動かしたいんです。安全性が担保できない状態の原発は、停まっているだけで損失だけが生まれてくる不良債権なんです。
 それをたくさん抱えている電力会社ほど危ない不良債権企業です。最大の不良債権企業は事故を起こした東電ですけど、関電は、このまま放っておくと数年で自己資本がなくなるので必死なんです。動かさないと食っていけない。これが今の関電なり東電なり九電なりの実は姿なんです。
 1990年代は銀行と財務省が壊れて、今度は経産省と電力会社です。電力会社というのは経団連の会長、副会長をずっとやっている企業です。地域独占でガッポガッポ入ったお金を自民党に政治献金して、経産省から天下り入れて、広告費を出して、研究者にたくさん研究費を出して、みんなハッピーな状態で打ち出の小槌のように儲かっているわけです。このど真ん中が壊れたわけです。壊れた瞬間に気がついてみたらほとんど無能で全く危機管理能力がないわけです。だから、チャンネルさえあれば一気に意見が表出して停まるということがわかったのが今回の大飯の問題だったんです。中央の政党、中央の新聞は言うことがほとんど変わらなくなって、一時期は消費税、TPP、原発、どれ見ても同じ新聞で、気がついてみると地方紙は全部反対なんです。中央の政党がみんな同じになって気がついたら地方の首長が自民党、民主党、社民党、共産党、何の区別もなくみんな原発の問題で一緒に動いて、中央官僚が無能だから自分たちで政策を提言して出す。そうすると圧倒的に住民が支えて支持しているからひるまず動く。そうすると停まっちゃう。こういうことが起きているんです。僕は「脱原発成長論」という本の中で書いているんです。集中メインフレーム型の経済から地域分散型のネットワークの社会になっていく。自然再生エネルギーがそういう仕組みだから、農業もそうなっていくし、経済もそうなっていく。政治もそうなっていくんです。これは新しい政治の芽生えが今起きているわけです。今最大のど真ん中の東電に鉄槌を下さないと、この状況は最終的に変わらない。ど真ん中ですので、そう簡単に崩れないというのはみんな覚悟しておかなければいけない。原発もそうです。そう簡単に崩れない。でも、たぶんわれわれの側もそう簡単には崩れなくなっています。
 このど真ん中の東電の今度の再建計画をみなさんできちんと批判してほしいんです。テレビや新聞はみんなが即物的に反対できることしか流していないんです。たとえば「電気料金を上げるというけどみなさん、こんな東電の姿でみなさんが生活が苦しいのに負担していいんですか」みたいなこととか、「事業が苦しいです」とか、わかりやすいじゃないですか。ここから先なんだと思うんです。この再建計画の本質を突いて欲しいんです。これはすごく巧みなからくりでできた計画です。これは原子力損害賠償支援機構でも東電のホームページでも載っています。88ページから「財務基盤の強化」という章がある。ここに昨年の6月14日の閣議決定が引用されています。この閣議決定の一番最後のほうに具体的な支援の仕組みという項目があります。その中の5項目目に、「必要であれば何度でも損害賠償設備資金と必要な資金があれば何でも貸して原子力事業者」つまり東電を債務超過にしない、つまり潰さないと書いてある。これは国会で決議になるときに問題になり、この部分にあたる具体的な支援の仕組みについては、役割を終えその見直しを行うことというのは、ちょうどこの国会決議の付帯決議の第10条に載っているんです。それが堂々と載っていて、しかも参考資料にその全文が掲載されている。ご丁寧に参考資料には、「これは経済産業大臣の認可の対象にあらず」。だったら載せるんじゃないよという内容が載っているわけです。もう東電は2.5兆円も賠償支援機構からお金を交付されていて、自己資金は8,000億円代に落ちているわけだから、事実上債務超過でこのままでは銀行が貸してくれない。でも、政府が約束しているからという話にしている。怖いですね。国会決議を無視しているというのになぜ国会議員は問題にしないのか。もう国会議員はだめなんです。首長に頼んだほうがいいくらい。というのがまず第一点。
 第二点は、この計画が持っている中身を見ていくとわかることは、まずは福島県民の除染費用、賠償費用をどんどんけちっているということです。これも参考資料に載せています。それをよく読んでいくと、20ミリシーベルト未満は全ての住民が帰宅することを前提として再計算する。つまり、20ミリシーベルト未満はみんな家に帰れ、除染もしない、避難も費用を負わない、ということが書いてある。実際に当然の再建計画には、除染費用は一切計上されていないんです。この計画は賠償費用を猛烈に削っていくということです。福島県知事が要求している福島の第一原発5号機、6号機の廃炉費用は一切計上されておりませんし、第二原発の1号機から4号機も廃炉費用は計上されておりません。通常は600億円ずつ積んであるんですけど、それはたぶん使い果たしています。
 2号機が水位60㎝、1号機は内視鏡がまだ入っていないのでわからないですけど、40㎝かもしれないという話が出てきています。そうなってしまうと、ほとんど技術的には廃炉にできる見込みが今のところ立たない状態なので、このままダダ漏れの状態がずっと続けていくわけです。なぜ想定外の津波かという理由は簡単なんです。原子力賠償法において想定外の天災があったときは免責の対象になるからです。もしこれが地震であったならば、損害賠償の責任が全部発生することになるわけです。それを免れたいというのが初期の動機だったんです。これが今の現状ですけど、この福島の残る6基の廃炉費用が計上されていないとすれば、二つしか可能性がない。一つは、いずれほとぼりが冷めたら動かす。もう一つは、金がなくてつけの先送りをしている。どっちかです。
 この賠償費用を全て電力料金で払う仕組みになっているのが東電の再建計画です。電力11社に対して一般負担金というのを負わせます。この一般負担金は、その他電気事業費というところに分類されます。これは当然、電力のコストになるので、総括原価の中に入ってきます。東電は今度の値上げの利益から上がる分で賠償支援機構に特別負担金というのを払います。このトータルの金額が2兆8,000億円。そのうち東電が1兆8,000億円。結局、借りているのをリストラで払うというのは真っ赤なウソで、事故処理費用や賠償費用も全然払えない状態になっていて、その代わりに電力料金で負担金を徴収して賠償支援機構にコツコツ返していく。10年間、2020年までに2兆8,000億円。もしこれ以上増えていけば、さらにその電力料金で負い続けるという仕組みが今回の再建計画です。
必要なことは三つなんです。一つは経営責任と貸手責任を問わなければいけない。二番目は、この東電の再建計画の中で福島県民を救うために最大限資金を捻出する方式を選ばなければいけない。そして三番目は、将来に繋がる発電と送配電の分離改革をこの東電の中で実現しなければいけない。所有権を分離して売却する必要があります。電力債の返済問題というのが残りますけれども、そうやって出してもおそらく足りません。5兆円が限度だと思います。だとすれば、15年経っても動かないもんじゅ。計画から20年経っても稼働しない六ヶ所村の再処理工場。もんじゅは表向き1兆円です。再処理工場は建設費で1兆4,000億円。動かない状態で運転費用が1兆6,000億円。わかっているだけで3兆円。他にも増資だとかいろいろやってますから、福島の人々がこんなにひどい目に遭っているのに、われわれの税金がこんなに無駄に使われていいのかということです。これを断固として東電を解体・売却した後に原子力予算を大胆に組み換えることによって福島県民の苦しみを救わなければいけないという声をあげないと、未来の世代に対して責任を負ったことにはならないと思うんです。
何よりわれわれが出発点にしなければいけないのは、福島で置かれている被害者の苦しみを救うために、できることを精一杯やる。その中で脱原発が必要になってくるということです。危険なエネルギーだからダメだじゃないんです。私たちは、ここで被害を被っている人たちをいかに救う枠組みをつくっていくのか、そしてその中でもちろん米の全量検査は森林バイオマス発電をやったりして、それを徐々に除染しながら再生エネルギーに転化していく。私たち自身が原発に依存している限り、全世界がエネルギー転換に向かっているときにこの国だけが取り残され、そしてかつての失われた20年と同じようにゾンビ企業に大量に責任をとらず貸し続けてこの国の不良債権処理問題を失敗したのと同じ失敗をこの東電で犯すことになります。この東電で失敗すれば、われわれは失われた30年になるわけです。これは絶対阻止しなければいけない。まさにこの東電問題と原発問題こそ、この国をいかに救うかという問題の試金石なんです。分水嶺なんです。これを突破することによって再生可能エネルギーへ転換しながら、地域で雇用をつくり出し、送配電網でスマート化し、そして節電や省エネを産業にし、建物の構造を変え、自動車や家電製品、耐久消費財を新しいイノベーションで製品につくり替えていく。こういう新しい波をつくることによってわれわれは突破できるんです。
 電力会社の今の悲惨な赤字状態を見ています。そして今、巨大な赤字にあえいでいる電気産業がいる。このスマート化と新しい再生エネルギーと省エネあるいは新しいエネルギーに基づく耐久消費財や住宅、こういうもので産業を伸ばしていかない限り私たちは生き残れないんですね。原発にこだわって後ずさりしていけば、そして東電を責任も問わず救い続けていけば、この国は滅びていくんです。われわれこそが日本経済を救い、私たちの未来の世代に財産を残し、そして雇用を残しそし社会を残していくということができるんだということをもう一度確認していただきたいと思います。最後に申し上げますが、燃料費の値上げやエネルギー不足だとかそういうウソに騙されない。それはメルトダウンから始まりSPEEDI隠しに始まり私たちはさんざん騙されてきて、もうこれ以上騙されない。その理屈をきちんと持っていきたい。そして本丸の東電を突き崩しながらエネルギー転換で私たちの未来の世代の成長や未来の世代の雇用をつくっていく、あるいは未来の世代の生活をつくっていくのはわれわれであって、このまま後ずさりすれば、われわれの国の経済も社会も滅びていくんだということをはっきりとみなさんの中で揺るぎないものにしていただきたいと思います。だからこそ原発は不良債権なんです。

村上達也さん(東海村村長)「原発発祥の地」からの脱原発宣言)
 今回の福島原発事故の報道あるいはそれ以後の対応を見ていて、この国の学者はだめだな、この国のエリートはだめだなとつくづく感じました。最近の記事で、原子力委員会での秘密会議と、原子力ムラというものの正体が暴露されました。しかし、あれは異常ではなく、原子力ムラというものはあれが正常なんです。だからああいうことは平気でやってきたということです。それに対してドイツのより安全なエネルギー供給に関する倫理委員会。このドイツと日本の落差は何なんだろうと私は本当につくづく情けなく思っているところです。
 私たちがここにおられるのはまさに天祐、全く偶然の神の采配だと思っております。東海第二原子力発電所は、まさに福島と同じようになってもおかしくなかった危機一髪でした。津波の高さと水中ポンプ室の防潮の高さがわずか70㎝の差ということで、あと70㎝高かったら全て水中ポンプ室が水没して、全電源喪失ということになったということです。しかもその水中ポンプ室の防潮壁の補修が完成したのはわずか二日前、3月9日です。完成していなかったら水中ホンプ室は水没し、非常用電源も動かなかったということになります。非常用電源も3台ありましたが、1台が水没し2台だけが動き、非常用冷却装置2系統のうち1系統はダウンし、1系統で冷却をやってきたので大変でした。
後で話を聞きましたらば、炉心の圧力を調整しなければ爆発するので、水を減らせば温度が上がり水が沸騰して水がなくなっていく。また水を入れる。そして圧力が上がるというようなことで、圧力調整弁を170回開閉して冷温停止に3日半かかって落ち着いたということでした。
 もっと恐いのは福島第一原発の4号機の燃料プールでした。あれが水素爆発で壁が破れ水が漏れ始めました。あれが漏れますと、まさに崩壊熱の高い熱が出ていますから、使用済み燃料の熱で水が沸騰しメルトダウンが起きます。燃料プールは裸のままですから、それが救われたのは全くの偶然ということは、あそこが定期点検中で、炉心の中のシラウドの交換のための機器を炉心に挿入するために炉心の上に水を張っていた。それが隣の使用済み燃料プールに流れ込んでセーフになった。しかもその炉心の上に張っていた水は、本来であれば4日前に抜いていたのが、作業の手違いでそれが抜けないでいた。地震でその壁がずれ、壁の隙間から使用済み燃料プールに水が入ったということでメルトダウンは避けられたということです。
東海村には原子力技術者がたくさんおりますが、その一人が3月15日に私のところに飛んできて、「一番恐いのは4号機だ」ということを言いました。アメリカのNRC原子力規制委員会も最も恐れていたのは4号機ですし、菅首相も一番恐れていたのはそれだったようです。あれがメルトダウンすれば170㎞圏は強制移住、250㎞圏は避難ということですから、東京のみなさん方も避難ということになったと思います。
 1999年9月30日に私が村長になってちょうど2年経過したときにJCO臨界事故に遭いました。私はあのJCO臨界事故から、当然ながら日本の原子力安全対策は改善されるべきだと思っておりました。それが結局何にもされずにきた。これが日本の原子力業界、原子力界の私は体質だと思っております。
JCO臨界事故のときにも四つの言葉を言いました。一つは「安全神話」。それにどっぷりつかっていると。これはまさに日本人のうぬぼれ、そして過信、自分に対しての過信ですが、日本では起きない。ロシア、アメリカ、中国、ヨーロッパでは起きても日本は違うと。そして「国策」。そして「想定外」。四つ目は「仮想事故」という言葉。私はこれをJCO臨界事故の原因の社会的な背景だと言ってまいりました。
原子力政策は国策だと言われます。極めて国権的な言葉で嫌な言葉とは思っているんですが、戦争です国策は。こういうやり方で原発を推進してきたのです。
それから想定外。これは今回もまさに想定外の津波であり地震だと言われておりますが、こんなものは想定できたはずです。2004年12月にスマトラ沖地震があり、われわれの目の前には日本海溝があったのですから。ところが2006年からの地震の原発の耐震バックチェックではそういうことは全然考慮されませんでした。
それから四つ目が仮想事故。これは原子力災害対策指針が一番シビアな事故だと想定してあるんですが、注意書きに「これは仮想事故であるから具体的な対応は要しない」という言葉がありました。何のために仮想したんだと。具体的な対応は必要としないとくるんですよ。これでは事故は起きますよ。どうしようもありません。
 東海村は原子力の村ですが、人口は38,000人おります。村長として生活している中で本当に異常な空気を感じてきていました。まさにその天皇制軍事警察国家と私は言いますが、その中に住んでいるような雰囲気でございました。私は常に監視されて、発言も常に監視されている感じがします。原発立地ではただ一人脱原発の決意いたしました。
東海村はまさに原子力なくして東海村はないと言われるぐらい日本の原子力の発祥の地でした。原発ができたということについては最近の朝日新聞等で報道されていますが、あれはちょっとわからないときにつくられたんです。東海村は日本原子力研究所を誘致したんです。研究ですよ。それがいつの間にか原発が来た。それから燃料加工会社ができ燃料公社ができたというようなことでした。その中で確かに経済的にも財政的にも雇用関係でもいろいろ依存しています。しかし私は、東海村から原発はいらないということを決意したわけです。この決意に至ったのは福島原発事故の推移を見てると、それは住民を保護しよう、住民を守ろうという姿勢より、原発、原子力政策を守ろうという姿勢が極めて大きかったことが理由です。テレビに出てくる解説者あるいは大学の教授、みんな御用学者みたいなことしか言いませんでした。そして、6月18日には九州の玄海原発の再稼働問題につきまして海江田経済産業大臣は安全宣言をしました。この国はだめだと思いました。何と情けない国だと思いました。まだ福島原発のとこについて何もわからず、救済もこれからどうしようかというようなとき、そして基準も何もできてない。方向性も決まっていないときに再稼働で安全宣言をしたという。そしてそのときから私は脱原発を言い出し、7月にはNHKの中でも報道されるということになりました。
さらに今年になり、大飯原発3、4号機の再稼働でにわかづくりの安全基準を急遽つくり、しかももう信用なんか何にもない安全保安院・安全委員会がそれを認め、それで再稼働へ政治判断をしたと。これで私はもうこの国は原発は持てない、持つ資格はないと思っています。
 それから先ほど金子先生のほうから損害賠償の話が出ていますが、何兆円かかるかわかりません。最近の政府の発表では2兆2,000~3,000億円。金子先生は5兆円、6兆円と言っていますし、私はもっと多いのかもしれないと思います。私どものところは、10㎞圏で25万人、20㎞圏で75万人、そして30㎞圏になりますと100万人、東京まで110㎞というようなロケーションです。ここで原発事故が起きたら、賠償は天文学的な数字です。これこそ賠償なんかしていたら日本国は滅んでしまうというぐらいの資金が必要だと思います。
 原発依存は時代遅れで未来がありません。そしてこのシステムも極めて中央集権的ですし、原発は高度成長期の遺物で、私は疫病神だ貧乏神だと言っています。エネ庁を中心として電力、原子力業界支配の集権的なシステムです。これは戦前の軍閥と思ったら私は間違いないだろうと思っています。極めて反民主的な体制になっております。そして今、自然エネルギー、再生可能エネルギーの開発だと言っていますが、本当に驚きますね。日本の再生可能エネルギーの比率は1.2%とか1%とか言われておりますが、この先進国で、技術大国でこんなものしかまだできていない。これは完全に原発を維持するため、原子力政策を維持するために圧殺してきたんです。その関係で技術開発の遅れということが起きていると私は思っております。
日本の省資源国日本の中では自前のエネルギーとして安全保障上必要なんだと言われてきましたが、この脆弱さはどうでしょうか。ちょっと事故が起きれば原発は停まります。そしてそれを補うものはない。しかし、多様な分散型の発電体制ができていれば補うことができるだろうと思います。現在、脱原発の世論と運動は盛り上がっております。今回変わったのは東京です。東京の人たちは今まで福島、柏崎の原発から電気をもらっていたことをあまり意識しなかったと思うんですが、それがはっきりと東京の人たちがその電力について意識し始めましたし、そして原発の存在を認知したと思っています。原発の存在を認知したということは、福島の原発事故と併せて認識しているわけですので、非常に強い世論になっています。全国世論調査協会の調査でも脱原発は80%と言いますが、超保守的な茨城県や保守的な静岡県でもかなりの自治体で脱原発、廃炉の議決をしておりますし、市町村長なども脱原発の首長会議は、はっきりと表明しています。脱原発の首長会議が4月28日に発足いたしました。まだ80名を超えたところぐらいですが、茨城県の中ではもっともっと実はおります。茨城県の東海第二の再稼働ノーと言っている首長さん方は44市町村のうち4割でありますが、私に直接言ってくる人をひっくるめれば半分は超えている状況です。
 電力の地域独占体制と総括原価方式、配送電一体的な体制というものは合わせて解体をしていくということ、これができていないですよね。私は特別法を制定して、債権者にも応分の責任、負担をしてもらうことが必要だと思います。アメリカ占領軍がやりましたが、財閥解体と同じような特別法をつくってやったらどうかと思っています。
最後に、浜岡、東海第二、そして若狭地方の原発というものは本当に動かしていいんだろうかと私はものすごい疑問を持っています。それこそ日本がアウトになると。福井県の原発を動かせば関西圏1,400万人の水を失うというようなことも言われております。

大石芳野(写真家)「20㎞圏内て考える~写真報告」
 福島東京電力第一原発の事故のあったところの20㎞圏内に何回か入って、そこの写真を見ていただくんですが、私は福島に去年の5月2日に入ったのが最初です。どこに行くかというと、この20㎞圏内とか汚染のひどい地域が主です。そういう中でいろんな人たちに会って何を考えているのか感じているのか、苦しんでいるのかなどなどいろいろお話を聞いて写真を撮っています。今日は集中的に20㎞圏内としました。なぜ20㎞圏内かというと、これが元凶だからです。人々の苦悩の元凶だから20㎞圏内ということに絞りました。20㎞圏内には人は住んでいません。4月に改変があり、南相馬市の小高区というところはだいたい戻れるようになったんですけれども、そこに夜を過ごしてはいけない。日帰りということになっています。でももちろん住める状態ではありません。基本的には誰も住んでいません。
 福島の人たちが言っていたことで印象深い言葉をいくつか紹介したいと思いますが、日本は戦後立ち上がりました。その理由は終戦というのを宣言したからだと。けれど、原発はいつ終わるかを宣言するのがいったいいつなのか先が読めない。だから不安が募って明日が見えないんだと。えらい人たちは、ということは政府とか東電とかを指しているんですけど、臭いものにはふたをする態度のようだけれども、臭い匂いは元から絶たなければだめだと言ってました。原発関連の施設はたくさんあります。濃縮工場とか再処理工場とか、中間処理施設とか、仮置き場とか全国にいっぱいあります。今50基になったということですけど、それだけたくさんあるわけですけれども、こうしたところを福島の人たちは避難先を変えても地雷を避けながら生活しているようなもので、前にはなかなか進めないんだという、そういった被災者たちの苦悩があります。その苦悩を私たちはしっかり受け止めなければならない。そのためには脱原発宣言というのを世界に向けて日本はしっかりと大声でやらなければならないんです。自然界の力を利用した循環型のエネルギーを総合的に移行していく、そういう叡智と技術と資金を私たちの指導者たちは終結させて、それを大切にしてやっていかなければならないんではないかと思います。
 私たちに何ができるのかということをしっかりと考えるということです。自分にできることをやる。節電というのは、節電だけでできるものではなくて、節約をする日常の暮らし方をするということになるわけですから、そういったことをやっていきましょうということと、自分にできることをやりましょうと。私は微力ですけれども、これから写真を撮り続けてみなさんに見ていただくようにしていきたいと思っています。

シンポジウム「債稼働をめぐって──安全と電力不足と原発──」>
パネリスト
井野博満さん(東京大学名誉教授・安全保安院ストレステスト意見聴取会専門委員)
松原弘直さん(ISEP(環境エネルギー政策研究所)主席研究員)
コーディネート
藤本泰成さん(さようなら原発1000万人アクション)

藤本 再稼働を私たちは絶対に止めていかなければ原発に依存しない脱原発の社会はできないなと思っていますが、再稼働についての問題点を少し探っていきたいと思います。

井野博満さん
 現在は脱原発に進むことができるのかどうかという歴史的分岐点じゃないかと思います。国民の間では脱原発は多数意見になっているわけですが、権力構造は変わってないんです。原子力ムラは健在だということです。この原子力ムラというのは、世界的に見れば原子力帝国の一部ですから、これを潰すということはなかなか大変です。逆に言えば、日本が脱原発という選択をすることができれば、アメリカを中心とする原子力帝国に対しても打撃を与えることができるということで、われわれの闘いは非常に重要な位置にあると考えています。そういう原子力ムラとの、あるいは原子力帝国との社会的闘争には二つの局面があると思います。一つは各地の原発の再稼働をさせない、また寿命延長をさせないという脱原発の闘いということで、もう一つは放射能汚染をどれほど大きいものと認識し、被曝・被害を小さく見せて補償をねぎる企みを潰すかという二つの局面です。
 大飯原発の再稼働をめぐる政府の安全性に関する判断基準が三つ出ているんですけども、いずれもいい加減なものです。まず緊急安全対策がされていること。これは津波の消防ポンプをつけるとか電源車を置くとか、非常におざなりな対策で津波対策ができたと言っています。二番目は、「福島第一原発を襲ったような地震・津波でも同原発事故のような燃料損傷に至らないことを確認している」というストレステストの大飯審査書にかいてある文言です。
 三番目は、さらなる安全対策の実施計画が明らかになっていること。実施されていることじゃなくて、計画が明らかになっていて時間がかかるものは計画を立てれば良いとしているだけです。技術的に重要なものは後で良いという、再稼働を前提にしたデタラメな基準だとしか言えないと思います。
 ストレステストの意見聴取会は、ほとんど推進派の委員と保安院に囲まれて、何か言うと回りがうさんくさそうな目をして見るというものなんですが、国民のサポートがあって大変心強く思っています。私が委員になったのは、安全性に関する総合的評価(ストレステスト)の意見聴取会と高経年化技術評価に関する意見聴取会です。高経年化とは老朽化した原発ということで、高経年化原発が今後も大丈夫かという意見聴取会です。今まではこういう意見聴取会のようなものには、保安院は私のような原子力に批判的な立場の人は一切入れませんでした。それが曲がりなりにも少数ですが批判的な意見も入るということは、そうでもしなければ保安院の信頼がさらに落ちるという状況を反映していると思います。
 ストレステストは、たとえば地震がどれぐらい大きいところまで耐えられるかということです。どこが弱いかを知るというのが目的ですが、それを日本では原発再稼働とリンクさせたわけです。今、20基のストレステストの報告書が出て、保安院は三つのチームでやっています。関西電力の加圧水型原子炉(PWR)、それ以外の加圧水型原子炉、沸騰水型原子炉(BWR)と、三つに分かれてやっています。保安院と一緒にやっているジェーネスという企業はメーカーの出身者が多いんです。PWRの場合は三菱重工の出身者がジェーネスにいて、その人たちが中心にやっているわけです。ですから、電力会社は三菱重工にストレステストを頼み、それを審査しているのがまたその出身のジェーネスです。しかも、意見聴取会の委員の中には三菱重工からお金をもらい強いお金の絆で結ばれた委員がたくさんいます。こういうのを利益相反と言いますけども、原子力ムラが一体となってやっている構造は全く変わっていないということです。
 ストレステストの何が問題かについては、第一回の意見聴取会に私は9項目についての意見を提出しました。それを列記しますと、①従来の枠組みの審議ではだめだ。②市民や住民の参加が必要だ。③位置づけが疑問。④判断基準が明確でない。⑤福島原発事故の原因を反映させなければおかしい。⑥地震の見直しも必要だ。⑦老朽化も考えなければいけない。⑧地震・津波以外の自然現象以外の外的事象。たとえば航空機がぶつかるとか、台風の問題も加えろと。⑨過酷事故の被害や緩和策を評価する必要性。放射能が出たそのときにどれぐらい被害が及ぼすのか。それをどれぐらい防ぐための緩和策があるのか。そういうことが必要だという9項目を出しました。
 簡単に説明しますが、住民・市民の参加がなぜ必要か。ストレステストというのは、大事故が起こらないということを証明するものでは決してありません。どういう条件になったら事故が起こるかということをここで言っているわけで、そうであれば、その事故によって被害を受ける可能性のある地域の住民が議論に加わらなければいけないと思います。これは欧州ではフランスとかドイツとかみなやっていることです。
 判断基準が明確でない。これは審査書において、福島第一原発を襲ったような地震・津波がきても事故にならないと言っているわけですけど、福島第一と大飯とは基準になる地震動も違いますし、津波の高さも違う。条件もいろいろ違うわけですから、それを基準にするのはできないわけです。
それから緩和策の評価。これは放射能汚染がどうなるかということがわかる内容でなければ住民は判断できないのに、それがやられてないということです。たくさんの技術的な問題が出され、地震の評価が甘い、制御棒が本当に入るのかという問題、非常用設備がお粗末だとか避難ルートは本当にあるのかとか、そういう問題が次々出ました。意見聴取会でも指摘したんですが、市民運動の追及によってこういう問題がますます明確になったということで、運動の力は大きかったと思います。
 安全性を誰が判断するのか。専門家をバックにした保安院とか安全委員会が判断すればいいのか、今回は安全委員会が安全だとは言わなかったんです。じゃあ政府なのかと。だけど政府が技術的な判断できるわけがない。では市民ができるのか。基本的には市民がすべきだと思いますが、そういう市民を含めた協議の場がつくられなければいけないだろうと思います。これが安全か危険かという判断は、ものをつくる立場にいる専門家の常識とその危険性を受け入れる市民の常識とは違うわけで、そういうことを踏まえて市民と専門家が一つのテーブルで議論する仕組みができなければいけないと思います。大飯再稼働で起こった事態は、安全委員会は安全だとは言わず、政治家が安全だと判断しました。誰も責任を負わない最悪の事態になっているわけです。それに対して市民の常識がノーを突きつけました。このことは大飯だけじゃなくて全ての原発で該当することです。
 そういう政策課題における基本的視点は、一つは全ての原発は危険だということ、その早期停止をめざすということが一点。それから公害運動から学べということと歴史的転換点にあるという認識の3点ではないかと思います。全ての原発は危険です。連鎖反応を制御できなければチェルノブイリ型になりますし、その後冷し続けることに失敗すれば福島・スリーマイル型の炉心溶融事故になります。完璧な技術というのはないわけで、事故は必ず起こります。原発が他の技術と違うのは、それが取り返しのつかない事故になるということです。そういう意味では、原発は技術とは言えない技術だと私は思っています。
 全ての原発は危険なんですが、「非常に危ない原発」と「かなり危ない原発」があります。安全な原発というのは一個もないわけです。非常に危ない原発というのは老朽化した原発、設計ミスが疑われる原発、地震・津波の危険が大きい原発、地震に見舞われて損傷した原発。こういうものが非常に危ない原発です。私はもちろん全ての原発をただちに停めるという社会的合意が必要だと思うんですが、状況によってはできないということがあるでしょう。その場合は、非常に危険な原発から停めていくことは技術的には非常に重要だと思います。
 これは大飯原発は場合によっては動かしていいということでは決してありません。大飯原発を停めなければ非常に危険な原発まで運転再開されます。全ての原発のルールがなくなってしまい、全てずるずるいってしまいます。そのためには大飯原発を停めるという選択をわれわれはしなければいけないと思います。
 公害運動は発生源で止めるということが重要でした。原発も停めるということしかありません。公害は差別構造の中で生み出されてきました。原発においてもその差別を許してはいけないということです。
 それから、歴史的転換期にあるという認識。これは技術のあり方、社会のあり方、全てを基本から考え直すということです。原発事故は日本社会のひずみや矛盾をはっきり示すことになりました。技術について言えば、原発エネルギーに限らず全てを問い直す。便利な技術から生活基盤を確かなものにする技術に変えていかなければいけないだろうと思います。エネルギー中毒からの脱却が非常に大事だと思います。エネルギーを変えるということは技術全体を変えないとできません。またエネルギーを変えることによって技術システムを変えることができます。

松原弘直さん
 ご存じのとおり、この5月5日に泊原発が停まって全て日本の原発は停まったことになります。1990年度から20年間、原発による電力と自然エネルギ(大型のダム式の水力も含む)による電力の割合を比較すると、ずっと原子力のほうが多かったわけですけども、2011年度のデータがぼちぼち出始めており、これを使って推計をしたら、原子力発電による発電量は全体の10%を切り、自然エネルギーによる発電が10%を超えて逆転したという推計もあります。今年度に再稼働できなければ原発による電力はほとんどゼロという状況になります。3.11が起きる前の2010年度のデータでは、今話題の関西電力の原子力に対する依存度が4割以上ありました。その他にも、九州電力も3割以上、北海道電力も3割近くあったり、原発にかなり依存していたということです。それで今様々な複雑な問題が電力の問題に関してあるということです。
 ちょうど3.11から1年経った3月11日に私どもの研究所所長の飯田哲也のほうから、原子力版船中八策というものを発表しています。非常に複雑で、再稼働の問題、そして電力が足りる足りないという問題、それから東京電力の処理の問題や賠償問題とか、もんじゅの問題とかいろんなものが複雑に絡み合っているわけです。核燃料サイクルの問題もあります。そういった問題をどう今後考えていくかということで、二つの大枠にくくってここでも整理をしています。一つが脱原発をどう決めていくのかということです。脱原発依存と政府は言っていますけども、それを一体どうやって実現していくのかということを細かく整理しています。それからもう一つは電力のあり方です。電力はどう供給されなければいけないのか、市場の改革をきちんとやっていくといったこと。その二つに整理してペーパーを出しています。
 再稼働問題と電気が足りる足りないという話はきちんと切り離さなければいけません。これをごちゃごちゃにしていると問題がはっきりしてこないということになります。ただし、政府の一部や電力会社・産業界もそこを切り離さずに、電力は足りない、あるいは化石燃料の燃料費が高騰してたくさん燃料費がかかるので原発を動かさなければいけないということを言っています。ここを切り離すことが重要です。
 原発再稼働の7条件ということも示しているわけですが、これは、大阪府市とか京都府とかで出している条件です。それの基になっているんじゃないかと考えられますけども、こういった様々な条件をクリアしなければ再稼働はとてもあり得ないという提案もしています。
 そして電力が足りる足りないという話は、実は東京電力の管内では去年の夏にすでに経験済みです。それによって、東京電力の管内は今年の夏はほとんど問題ないだろうという状況まできているわけです。それでわかったことは、昼間電気を使うピーク時にたくさん電力を使っているのは、家庭ではなく、業務用とか工場、オフィスとか商業施設です。そこの電力のピークをいかに抑制するかを去年の夏いろいろやって、結局それがうまくいったということです。家庭の節電ももちろん有効ですけども、業務用・産業用の電気をいかにピーク時に削減するかということを私たちはきちんと考えて働きかけなければいけないということがわかっています。
各電力会社ごとにこの夏の電気が足りる足りないといういろいろな試算が出ています。私どもも、この4月23日に一番最新のレポートを出しました。これを見ますと、基本的には全ての電力会社は足りるということですけども、ポイントはやはり電力の需要をどこまで抑えられるかということです。2010年の猛暑を前提にして、あまり節電ができないということを考えると、確かに足りないという数字も出てくるわけですけども、きちんと節電をしていくと、特に産業界がちゃんとやれば、あと供給力もそれなりに増えますし、足りるはずだというペーパーを出しました。
 もう一つ大事なのは、電力の融通です。足りない電力会社があれば他の電力会社が融通をするという仕組みがこうやって電力会社間の線が繋がっているわけですから可能だということです。
 節電対策もいろいろあり、企業を中心にスマートに行う方法は十分にあるんです。電気料金の体系も、今まで電気をたくさん使ってもらうという前提の電気料金になっているわけですから、ピーク時の電気を抑えるような電気料金の体系をやることは十分に可能だろうということです。国のほうもこういう試算が出ているわけですからきちんとやろうということで、国家戦略室が自給検証委員会を急遽立ち上げて、私どもが最新の提案をした4月23日がちょうど第一回だったんですけども、所長の飯田哲也が呼ばれて説明をしました。短期間で6回の委員会が開かれて最終的に報告書が5月の中旬に出ました。結局、供給力はいろいろ積み上げても一昨年の猛暑、そして節電を考慮しても一部足りない電力会社があるという結論にはなったんですが、ただ、いろんなことがわかりました。関西電力からもいろんな数字が出ましたし、結局いままでよくわからなかったところがかなり明確になったということです。ですから、どこをどうやれば解決できるという目星がついたということです。政府は去年の段階でそれをやらずにここまで引き延ばして再稼働を何とかやろうとしたわけですけども、結局、節電をどうやるんだということに結論はなったということです。
 さらに政府のエネルギー環境会議で最終的な結論を出したわけですが、関西電力が明らかに15%ぐらい足りないということです。ここでは再稼働がどうのこうのということは言ってなくて、足りないので何とかしましょう。がんばって節電をしましょうということになったわけです。
 今後、脱原発するときにどういうことが課題になってくるかと言いますと、一つは各電力会社が負担する火力発電の燃料費です。石炭、天然ガス、石油の燃料費、これが全体で3兆円ぐらい今年かかるんじゃないかという試算があるわけですけども、それがその各電力会社の経営に非常に圧迫する。そこが一つ電力会社の経営問題に発展するといったこと。それから、再稼働ができなければどんどん原発が不良資産化しますので、それをどうするんだということです。政府のほうは今エネルギーの基本計画を見直すということで選択肢の原案をつくっていますけども、来月ぐらいにその原案が出てくるということです。ポイントは、2030年までに脱原発0%ということをいかに前倒しできるかということです。そこに持っていかなければいけないということで、民主党の脱原発ロードマップを考える会というところでは、2030年以前に0%の脱原発を達成するという検討をすでにもうしていて、提案を出そうという動きもすでにあるということで、実はいつまでに脱原発するのかということが一番大きな争点になるだろうと私も考えています。

藤本 どれだけのストレスに耐えられるかという審査ということですけれども、加圧水型の先ほどの非常に危険な原子炉、たとえば玄海1号機なんかはストレステストをやればどういう結果が出てくるのかなと思うんですが、設計段階での数字で審査をしているということなんでしょうか。
井野 設計のときのということです。今のところ玄海1号のような古い原発は出てきてないんです。関西電力の中でも古い原発、1970年代の原発が一番すぐにもやめなければいけないと私は思うんですが、大飯は1990年ぐらいで、比較的新しいものを出してきているということです。
藤本 それはそのほうが結果としては少しましなものが出てくるということで出したんですか。
井野 目論見としては、私の分類で言えば、非常に危ない原発に対して、かなり危ない原発のほうがまだ通るだろうということで出したと思います。ところが、ましだと考えられた原発についても問題がたくさん出てきました。そういう意味で、私は菅さんがストレステストを再稼働と結びつけたのは良かったんじゃないかと思います。結果的には玄海3号の運転再開そのまま1年も停めて、ストレステストを導入した結果、まさに脆弱性を明らかにすることができたという意味で良かったと思っています。
藤本 ストレステストは、大事故が起きないということを証明することではないという話をされました。そうすると、事故が起きる可能性は残る。市民感覚的に言うと、それは安全ではないというのが普通の感覚ですよね。それと同時に、30㎞圏内に避難地域が広がっているということも含めて、じゃあ事故が起きる可能性があるならば避難はどうするのか。大飯原発で言えば、その30㎞圏内にどれだけの人が住んでいるのか、何十万という人が瞬時に避難するのは非常に困難なことだろうと思うんですけど。
井野 事故が起こってどれぐらいその放射能が出るか、それをどうやって抑えられるか、減らすことができるかという緩和策。そういう議論は二次テストでいいんだとしているわけです。だけども、避難が、被害がどれぐらい出るかということを抜きのストレステストは住民にとっては全くリアリティーのないものです。ですから、そういうことをやらないで一次で再稼働を認めるというのはとんでもないことだと私は主張しているわけですが、それは3大臣のスキームになっており、保安院はそれにしたがってやっているという説明です。だけど、一次、二次テストまで含めてやらなければ本当のことはわからないので、斑目安全委員長も二次テストがなければこれでは完全なものとは言えないということを言ったわけです。大飯原発は安全委員会は保安院が妥当だというのは妥当だということで通しちゃったわけですが、伊方3号が保安院から3月に出て安全委員会にかかっています。だけど安全委員会は完全にその後サボタージュしています。これは大変結構なことだと思うんですが、とにかく斑目さんはやる気もなくなっているというか、3月末に送られ2ヵ月経っているのに何の審査もしていない。細野大臣は規制庁ができてから大飯以外はやるんだと発言されているということで、とにかく全く予定が狂ってしまったわけです。関西電力も大飯原発が1年経ってもストレステストが通らないなんていうことは考えてなかったと私は思います。
藤本 福島の事故の検証の中間報告を見ていると、いわゆる想定外の津波に対する東電・国の対応のまずさということしか出てきていないような気がしていて、最初に地震によって起こった揺れは影響なかったのかというところがあんまり話題になっていないのは、そのことが出てくると他の原発を動かすことができないからかなんてうがった見方をするんですが、そこらへんはどうですか。
井野 とにかく津波だけのせいにしたいわけです。地震の影響ということになれば、それこそ全部の原発に波及するわけです。実際は津波と同時に地震が非常に大きくて、外部電源の鉄塔が倒れたわけです。それが倒れなければ外から電力がきたわけですから、電源が倒れて復旧にも非常に長時間かかったわけです。地震でどれぐらいやられたかということについては、東京電力と保安院がやった調査では、やられていないという結果が出ており、それが意見聴取会で出て、推進派の人たちはみんなそれを信じているわけですが、これは決してそうじゃないと思います。田中三彦さんは、地震による損傷のことを最初から言っています。たとえは1号機と3号機は水素爆発が建屋の外で、2号機は下で爆発しています。同じ津波でやられたときに、片方は上で爆発し片方は下で爆発するということはないわけで、やはりそこは何かの損傷があって、2号機の場合はサブレッションチェンバーが壊れていたとか、そういうことが津波の前に起こっているということを強く示唆しています。もちろん中の検証が入れないからわからないのですけれども、そういう強い可能性があります。国会事故調が今年の7月に新しい報告書を出します。国会の事故調は自民党なんかもかなり一生懸命つくったわけですが、政府の役人を除いてつくったために、田中三彦さんとか石橋克彦さん、崎山比早子さんとか、原発に対する批判を持っている方たちが委員になっています。国会事故調の結果はわれわれとしても真実に迫れる内容が出てくるんじゃないかと思います。にもかかわらず大飯原発を再稼働をさせることは非常におかしいと思っています。
藤本 松原さんにお聞きしたいことがいくつかあるんですが、東電は、東洋一の火力発電所と言われた久里浜火力発電所を一生懸命動かそうとしていますが、そこに80万キロワットぐらいのガスコンバインド発電が入っているんですね。東電は相当そういうのを入れているんじゃないかと思いますが、その東電の状況と関電の状況はだいぶ違っており、考え方も違うのかなと思う。そこらへんあたりはどうとらえているんですか。
松原 東京電力はもちろん、去年の震災後からいろんな発電所を立ち上げていて、夏に関してもいろいろ対策をし、電気を使う側もいろんな対策ができていたわけです。それが今年の夏も活かされるということなんですけども、関西電力のほうは、結局原発頼みで全くやっていなかったわけです。ですから、再稼働を前提に考えていたので、再稼働ができないとなると、ほとんど対策ができていないという状況になってしまったということです。いろんな検証が進みましたけども、結局15%というとこまできていますので、あとは、特に産業界が節電することによって、揚水発電の能力もアップします。電力融通に関しても関西電力管内だけじゃなくて、中国電力、中部電力の管内がきちんとやれば融通も可能だということですから、何とかなりますけども、関西電力のほうはやっぱりいろんな対策がどうしても遅れてしまったということです。
藤本 その揚水発電を関電は232万キロワットとしています。実績は465万キロワット。「何でそんなに減るのか」「夜間電力は他でもやれるじゃないのか」と経産省に質問したら、「いやそれは原発停まっていますから」と言ってそれ以上は説明しなかったんだけど、そういうウソみたいなものはないんですかね。
松原 揚水発電の能力に関しても、最初の頃は情報がなくてよくわからなかったんです。よくよく聞いてみると、原発が停まって供給力がない状態で揚水発電を使うとぎりぎりになるので、結局、夜のくみ上げも不足するし昼間も長時間使うのに足りないということらしいんです。そういう使い方をするのは本来の使い方じゃないんですね。本当はある程度供給力を確保するというか、需要を抑えて揚水発電の能力を十分に活かすような状況にした上で使う。そうすれはフルの500万キロワット近い能力が出るということなんです。そういう前提に立っていない状態で200万ぐらいしかないと言っていたということです。それがよくよく聞いてみるとわかったことです。
藤本 いろんな工夫をすれば何とか夏は乗り切れるだろうという見通しはあるということですね。
松原 そうです。15%で去年の東京電力の管内より厳しいとは言われますけども、電力の制限令は出さないというレベルという判断になってますから、要は、実績を見ると関西電力というのはほとんど節電がまだできていないんです。東京電力の管内は10%近くできているんですけども、関西電力のほうでは3%ぐらいしか節電ができていない。今節電をほとんどやっていないところからのスタートなので厳しそうに見えますけども、節電をやればずいぶん乗り越えられるレベルだろうと考えています。
藤本 私たちは7月16日に10万人集会の準備を進めているわけです。なぜ7月16日なのかというと、それはエネルギー環境会議が国民的な議論ということで、具体的な提案をしてくるだろうと。今いろんな報道で聞いてみると、0%、15%、20%、35%もある。松原さんから言うと、2030年0%というのは具体としてはどうなのか。15%ということでいけば新規原発はない。さっき金子さんにそっちで聞いたら稼働率今80で計算して15%、稼働率を70とすると12~13%になるのかなあという話だったんですけれども、具体的に自信を持って言えるところがありますか。
松原 総合エネルギー調査会の基本問題委員会というところでやっていますけども、二十何回会議開かれる中で結構変な議論が行われていて、選択肢のつくり方もおかしかったのかなあと思うわけです。脱原発依存というところをちゃんとフォーカスして議論すべきところを、2030年という断面で原発への依存度を列記したような状況になっているわけです。40年廃炉でやれば整備利用率を確かに70%くらいにすれば12%以上にはならないわけです。さらに、危険な原発を停めればさらに下がるわけです。そう考えると、2030年0%というのがまず基本で、あと2030年より以前にどれだけ早められるかといったことですね。脱原発をいつまでに実現するかということが基本的な選択肢であって、本来そういう議論をしなければいけなかったはずなのにそういうことになっている。ですから、2030年0%なのか2025年なのか2020年なのか、はたまた2012年なのかということをきちんと議論しなければいけないと考えています。
藤本 井野さんはそこのところどうですか。
井野 脱原発依存というときに、即時全部停めろという議論とそれから30年にだんだん減らしていく議論の両方があって、たとえば大飯原発停めろ、全部停めろというのが即時停止。私のもう一つの老朽化の研究会でやっているのは、最長40年でそれが原則だと。しかし例外もある、例外を認めるべきじゃないという議論をやっているわけです。そうすると、今停めろというのと、少し時間をおいて停めろという二つの考え方をどう僕らは考えていったらいいのかということがあると思うんですが、今おっしゃったように、たとえば2030年は0%にする。それをなるべく早くするんだということが結局合意点になるかと思うんです。われわれは今の時点では感覚的にはとにかく全部の原発を停めなきゃいけない。一つの原発も動かしてはいけないということの力を強めるということが非常に大事だと思うんです。しかしもちろん、たとえば技術的に見てとかエネルギー政策とか見てというような議論の場でも、推進側の現状のままというのと対抗していくためには、どう脱原発を実現できるのかという政策論みたいな議論もやっていかなければいけないと思います。
世界の核開発の一環として原発ができたということですから、原発はまさに停めなければいけないんですが、政策的なことも考えた両面ということも考えなければいけないと思っています。
藤本 井野先生は、原発は技術とは言えないということをおっしゃいました。僕は専門的なことはわからないので、火は消せるけど放射能は消せないぞという話をずっとしてたんですが、そういう意味で技術とは言えない。それからもう一つ、ドイツの倫理委員会は数字を使わずに脱原発を主張していますね。そういうところで言うと、井野先生、私たちの将来に原発はないんだということでしょうか。
井野 原発は技術とは言えない技術だということは、火を1000年間消せないんです。ですから地層処分ということができない。ですから、廃棄物を処理できないような技術は技術とは言えないわけです。それと同時に、取り返しのつかない大事故を起こす技術は技術とは言えないわけです。こういう二点において技術とは言えません。
ドイツは脱原発なんですが、70年代の8基は即時停めました。残りは2022年までに停めるという二段階です。それは一つの政策的な選択だと思うんです。やっぱり非常に危険な原発である70年代の原発ですね。東海第二も含めて即時停めなければいけない。それから地震・津波の危険性の非常に高い原発も即時に停めなければいけない。地震で壊れた福島第一の4号機とか、ああいうものもきちんとしないといけない。そのように個別に全て潰していくと生き残る原発はなくなるということになるかもしれないですが、そういう議論をきちんとした上で具体的な政策レベルでも脱原発を強力に進めるということが大切じゃないかと思っています。
藤本 1000万人アクションは、自然の恵みをエネルギーにということでやってきたんですけど、松原さん、自然エネルギー100%の社会というのはいつ実現できるでしょうか。
松原 これは私たちの意志だと思うんですけども、私どもが提案しているのは、2050年までに100%と提案していますし、いろんなところがそういう提案をもう始めているんです。これは原子力の制約が非常に厳しくても、どんどん早く停めなければいけないですけども、実は化石燃料も制約があるわけです。これもなるべく早く減らさなければいけない。そうすると残りは自然エネルギーしかないです。とは言っても時間がかかりますから、2040年、2050年というレベルで実現をしていこうと考えています。
井野 その点については私はちょっと考えが違うんですけれども、原発と化石燃料の問題は少し分けて考えなければいけないと思っています。原発なしでも工業社会は動きますが、化石燃料なしでは今のシステムの工業社会は動きません。自然エネルギー100%では今の工業システムは全く動きません。そのことは最後に僕らが技術の徹底検証で書いたところなんですけども、つまり、近代工業社会は化石燃料が動力となってできたわけです。ですから、それをそうじゃないことにするためには、相当な全体の技術の変化、社会の変化ということが必要になるわけです。もちろんそういうことを踏まえておっしゃっているかもしれないんですけれども、そこは非常に大変なことであって、0%には相当時間がかかると思います。当面原発は0%にする。それから化石燃料は半減すれば温暖化の問題も相当なくなります。化石燃料のエネルギーをふんだんに使っている生活を変えるという決意がなければ自然エネルギー100%というのは実現できない。その決意だけでも実現できないというかなり難しい問題が私はあると思います。しかし、日本は自然エネルギーに対して全く後ろ向きですね。それは変えなければいけない。だから自然エネルギーをベースにしたエネルギー政策に変えなければいけないということについては全く同意なんですが、化石燃料は残念ながらしばらくは残らざるをえないだろうと思っています。
藤本 自然エネルギー100%という言い方をしたときには、電力ぐらいは自然エネルギーで100%でやろうよというようなところなのかなと思いますが、それを超えて議論をしなければいけない。たとえば飛行機は電力では飛ばないので、そういう意味ではどういう社会をつくるのか。近代というものから私たちが脱近代という社会のあり方に向けてどうするのかというのはもっともっと議論しなければいけないことだと思います。私たちドイツの倫理委員会の文章を全訳していこうという作業も進めておりまして、いろんなところでみなさんと議論をしながら、しかし脱原発の社会をつくることが社会を変えていくことですし、原子力ムラも変えないといけないと思います。そういう意味で私たちの命を大切にしてくれる社会をつくるためにがんばっていきたいと思います。

鎌田慧「まとめ・行動提起」
 今日のテーマは、これからどういう社会で生きていくのか。これからの未来にどういう社会を残すのかということと深く関わり合っていると思います。とにかく今の原発はなくしていくという運動を強めていくということだと思います。日本国憲法は、主権は国民にあるということを規定しています。つまり、今すぐやめるとかこれからやめるということも含めて原発はもう8割以上は認められないという、ちょうど戦争状態でいったら厭戦気分がみなぎっていまして、もう本当にいやだという声になっています。それが国民の声です。国民の声で政治を行っていくというのが日本国憲法前文にある主権在民の精神です。そういう意味では、私たちの意見はもっともっと強めていく必要があります。もっともっと強めて明確に原発を廃止していくという方針を出していく。それから、将来のエネルギーについては、これからいろんなことを考えていけばいいわけで、とにかく今のこの危機的な状況から脱却していく、そして子どもたちに確かな世界を残していく。そいう方向に向けて、今全国でいろんなところで脱原発の集会が始まっています。
国会の中も動かしていこう。民主党の中も動かしていこう。そして野田政権に原発再稼働を断念させよう。断念させながらとにかく原発のない社会に向けていこうというのがようやく具体的に見えてきました。本当に力を入れていけば力を入れていくほど私たちは原発から脱却できる。そういう一歩一歩を今歩いていると思います。本当に油断しないで手を抜かないで一歩一歩進めながら未来へ向かっていきます。7月16日の集会には、本当にみなさん一人残らず集まってください。本当に大きな集会にして歴史に刻む集会にしたいと思いますので、みなさん一緒に参加してがんばっていきましょう。

(編集:事務局)

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