原子力規制委員会による新規制基準に基づく適合性審査は、申請が出された原発のうち川内原子力発電所(九州電力・鹿児島)を優先的に進めていると伝えられています。審査報告書は今月中にも出されるといわれており、その後、パブリックコメントや自治体同意を経て再稼働につながっていくとものと考えられます。避難防災計画の策定もままならず、実際に計画を運用できるのかその実効性に不安を抱いている自治体もあるとされながらも、防災計画に不安を残したまま、政府は原発の再稼働に突き進もうとしています。
こうしたなか、「さようなら原発」一千万署名 市民の会は、呼びかけ人8名の連名で、原発の30キロ圏(UPZ:緊急時防護措置準備区域)の全自治体へ申し入れ書を送付しました。
緊急避難防災対策地域(UPZ)
各自治体 県知事・市町村長 様
さようなら原発1000万人署名市民の会
呼びかけ人
内橋 克人 大江健三郎 落合 恵子
鎌田 慧 坂本 龍一 澤地 久枝
瀬戸内寂聴 鶴見 俊輔
住民の暮らしと安全を守る立場から、地域行政での日頃からの真摯なご努力に敬意を表します。
2011年3月11日の東日本大震災および東京電力福島第一原発の事故のあと、少ない情報と自ら被災しているきびしい状況の中で、自治体職員による住民の生活と安全を守るための犠牲的な活動は多くの市民に感動を与えました。
現在、被災自治体では、復興への努力が続いており、職員の不足から全国の自治体から支援の派遣が続けられていると聞いています。いつ終わるのか先が見えない仮設住宅での生活は、住民生活や健康に大きな悪影響を与え、震災に関連して亡くなっていく方も後を絶ちません。市民の我慢と自己犠牲による地域社会の復興には限界があります。早期の復興には、国による全面的支援が、とりわけ必要と考えます。
未曾有の過酷事故を起こした福島第一原発は、溶融した燃料棒からの放射線量が極めて高く、常時水を注入して冷却を続けるのが精一杯で、事故の収束のめどは立たっていません。たまり続ける冷却水は膨大な量となり、その処理は喫緊の課題となっています。地下水の汚染も甚大で、海洋への影響も懸念される状況です。14万人とも言われる避難者の帰郷もめどが立ちません。セシウム137の半減期は30年、居住が可能になるには、長い歳月の経過を待たねばならないのが現状です。
また、福島原発事故の原因がどこにあったかと言うことに関しては、「津波による全電源喪失が原因」とする意見と「地震の震動によって津波の前に原子炉自体に何らかの異常が起きた」とする意見があり、明確な回答は出ていないのが現状です。原子力規制庁の再稼働に向けた安全審査は、そのような不十分な知見に基づいたものであり、審査基準が完全なものとは言えません。
原発事故のあと、原発から30キロ圏内にある自治体に対して、緊急避難防災計画の策定が義務づけられました。各自治体では、その策定に全力を傾注されていると思います。しかし、避難路の整備、避難手段の確保、気象条件や災害被害への対応、入院患者の方や自立歩行が困難な方の対応、正確な情報の取得と住民への周知など克服する内容は多岐にわたっています。膨大な住民をかかえる自治体では、その策定と具体的運用は極めて困難ではないでしょうか。諸外国においては、避難防災計画は原発を運用する電力会社の責任であり、その実効的策定は原発稼働の条件となっています。避難防災計画を知事が承認せず、原発稼働を取りやめた米国ニューヨーク州のショーラム原発の例に学ぶべきではないかと考えます。
今年3月に行われた朝日新聞の自治体アンケートによると、4割の自治体で避難防災計画が策定されておらず、策定した自治体においてもその実効性に不安を抱いていることが示されています。私たちは、完璧な避難防災計画は困難であると考えます。過酷事故の可能性が否定できないこと、一旦過酷事故が起これば大混乱は必至であり、福島原発事故のように地域社会の崩壊に繋がることになります。ですからUPZ圏内各自治体より、住民の安全と生活を守る観点から政府に対して以下の趣旨の申し入れを行い、安易な再稼働に対して反対の立場を明確に示されるようお願いします。
①住民の暮らしの安全を守る立場から、実効ある緊急避難防災計画が策定出来なければ、原発の再稼働は行わないこと。
②原発の再稼働は、緊急避難防災対策地域圏内の自治体との協議と承諾を前提とすること。